100人いれば、100篇の日々と暮らしがある。わたし達が寄り添いたいのは、ひとりとひとりの日々。そして、暮らし。そこで、気になるあの人のご自宅や仕事場にお邪魔して、お話しを聞かせていただきました。その際、事前にSghrの製品を選んでいただき、実際に暮らしの中で使われた実感や感想をお聞きしました。暮らしの日用品であるSghrの製品は、職人のもとで生まれ、使い手の暮らしの中で育っていきます。

6回目の今回、取材させて頂いたのは、多肉植物を扱い独自の作品やアレンジを提案されているTOKIIROのお二人。多肉植物との運命的な出合いやこれまでの歩みをお聞きするのみならず、お二人が日々、植物に触れ、植物と向き合っていく中で培われた、私たちの暮らしの根っこを見つめるようなまなざしに、単に観賞するだけではない、人と植物のこれからの共生・共住のありように想いを馳せるひとときとなりました。

photo

TOKIIRO

近藤 義展
1969年新潟県糸魚川市出身。東京薬科大学中退。TOKIIRO代表、植物空間デザイナー。著書に「多肉植物生活のすすめ」主婦と生活社、「ときめく多肉植物図鑑」山と渓谷社などがある。書籍は国内のみならず中国語(繁体)、韓国語、英語に翻訳され、独特の世界観が多くの地域に広がっている。NHK 趣味の園芸講師。日本園芸協会 講師。

吉原 友美
1978年千葉県浦安市出身。TOKIIRO PR/マーケティングマネージ、グリーンスタイリスト。音楽会社のデザイナーであった父の影響で幼少のころよりモノやコトに興味を持ち、自ら足を運び全身で空間を感じ、独自の目線で時代を推量。自身の感性を丁寧に追いかける中で人とのご縁や物との出会いを生みだしつないでいきながらTOKIIROのかじ取りをしている。

http://www.tokiiro.com

TOKIIROのセレクト

器に世界を表現する

曇り空にもかかわらず、大きな窓から十分な光が差し込む、植物のためのアトリエでまず出迎えてくれたのが、Sghrのガラスの器に居場所を得た、花びらのような多肉植物でした。料理ではなく、多肉植物がガラスの器にしつらえられて、しかも全く違和感がなく、さりげなく一つの世界観を創っていることに、驚きました。

(近藤さん)「多肉植物を使って、器に世界を表現する。というのをコンセプトにしています。お店のディスプレイなんかもやらせてもらいますが、お店自体が器として、そこに世界を表現します。なので器ってすごく重要なんです。何か器を見ると、どうやって植物を植えようか、どうやったら植物が気持ち良くしていられるか、そこからどんなメッセージが伝わるだろうか。いつもそんなことを考えてしまうんです。そうやって四六時中、植物を介して生きているようなものだから、もはや僕は人間活動してないんじゃないかと思ってます(笑)」

もはや人間活動も脇に置いてしまうほど(笑)植物に魅了される理由をお聞きすると、近藤さんの力強い言葉が返ってきました。

(近藤さん)「植物は生きているので、それだけでパワーがあるんですね。人間よりも長生きをしていて、そのこと自体にもともとメッセージがあると思うんです。この植物たちが生きていないと、人間も生きていけない。絶対的に光合成による酸素が必要ですから。だから、植物がいかに元気であるかが全ての文明や文化の源だと思っています。僕は多肉植物を使って表現、とか生意気に言ってますけど、僕が特に何かをしているわけではなくて、もともと植物が持っているメッセージをより多くの人に伝えられたらと思っているだけなんです」

2015年から毎秋に東京で開催されている個展では、そうした植物が持っているメッセージをTOKIIROならではの解釈で、作品化して発表する機会になっているとのこと。たとえば、ある年の個展では「心静かにきみ(植物)の声を聞く」といったテーマで開催。来場者のみなさんがそれぞれ、内省的な状況の中、植物の声に耳をそっと傾けていた様子に、とても手応えを感じたそうです。

今年は、生命の存続には絶対必要不可欠であるけれど、目には見えない存在である、「光」をテーマに、11月6日(水)から11月10日(日)まで開催されるようです。詳しくは会場の、『組む 東京』のホームページをご覧ください。http://www.kumu-tokyo.jp

photo
photo
photo

運命的なきっかけ

観賞の対象としての植物をただ扱うのではなく、もっと大きく深く、植物からのメッセージを受け取り、人と植物の関係をより良く、本質的なものにしたい。そういったTOKIIROのお二人の姿勢に、深く頷かされます。そもそも、そこまで深く向き合うようになった植物、とりわけ多肉植物との出合いのきっかけは何だったのでしょうか。

(近藤さん)「実はもともと、植物ダメな二人だったんです。買ってきたものは、必ず枯らしてました。ある日、親戚から山梨の八ヶ岳倶楽部のフルーツティーがとても美味しいから飲んでおいでと言われて、行ってみたんです。そこに多肉植物のリースがあって、彼女(吉原さん)が欲しいと。何を言ってるんだと…枯らしてしまうじゃないかと(笑)加えて、まだ当時は価値が分からなかったので、価格が高く感じたんです。そうしたら、八ヶ岳倶楽部の代表であり、園芸家の柳生真吾さんの本も置いてあって、パラパラと見てみると、作り方が書いてあったので、作れそうじゃん!と思ったんです。なぜか。そこで、彼女を説得して、その本だけを買って帰ってきて、翌日に早速、近所のホームセンターを全部回って多肉植物を買い集めて、作ってみたんです。そうしたら彼女が、その出来栄えにすごい喜んでくれて」

(吉原さん)「売っていたものよりも本当に良いものができて、びっくりしました。すると、あれよあれよという間に、本に掲載されているものを全部作ってしまったんです。それまでも付き合いは長かったんですが、こんなに器用だったんだぁって気づかされて。当時は私も彼も、まったく植物とは関係ない仕事をしていたので、あたらしい世界が広がった感じがしました」

(近藤さん)「僕はその時点では、とくべつ多肉植物に興味があったわけではなかったんだけど、とにかく喜んでくれたことが嬉しくて。そのうち、作ったものが日に日に増えていって、家のデッキや玄関に並べていたら、ご近所さんから声を掛けられるようになって、材料費だけをいただいて作るようになったんです」

(吉原さん)「最初の頃はまだまだ趣味の延長という感じでしたが、徐々に手作り市や青山ファーマーズマーケットなどで販売をし始めたんです。それで段々、ブリキや琺瑯などに寄せ植えをして、私たちの世界観を作ろうということになっていったんですね。それで、世界観ということを考えると、器にもより興味がいくようになって、今のような作家さんの器を使って、作品を作るという方向性になっていきました」

(近藤さん)「だから、あの時、多肉植物のリースに出合わなければ、柳生真吾さんの本に出合わなければ、万が一あの時、リースを買って済ませていれば…(笑)絶対に今はないですね」

photo
photo
photo
photo

多肉植物が教えてくれること

(近藤さん)「実はある時、イベントに出店していたら、僕らの運命を変えた本の著者である柳生真吾さんがふらっと遊びにいらしたんです。それで僕らのブースにも立ち寄ってくれて、作品を見て、すごく褒めてくださったんです。もう、二人でハイタッチですよね。そしたら、なんと1週間後に電話があって、八ヶ岳倶楽部で販売したいと。もう、嬉しかったですね。それから、憧れの人である真吾さんと、実際にお会いして話しをしたり、考えに触れたり、このアトリエにも2回ほど遊びに来てくださって、密な関係になっていったんです。でも、そんな矢先、真吾さんが亡くなってしまって。本当にひどく落ち込みました。引き継ぐと言ったらおこがましいけど、何か僕にできることはないかと考え込んでいたら、真吾さんが亡くなる直前まで連載コラムを書かれていた山梨新聞の記事を、ある人が教えてくれたんです。その最後のコラムは、なんで多肉植物は紅葉するのに落葉しないんだろうね?で、終わってるんです。もちろん真吾さんは知っていたと思うんですが、その時、僕はそれに答えることができなくて。自分は全然多肉植物のことを知らないんじゃん。と思ったんです」

恩人である柳生真吾さんの最後のコラムに、深いメッセージを読み取った近藤さんは、それから、植物についての知識や見識をもっと深めようと、光合成のメカニズムや、植物の形と原産地の気候の関係、ひいては地球の営み、宇宙の起源にまで探求の矛先が向いたそうです。私たちは、自分たちが暮らしている世界が、本来そうしたとても大きなスケールの中にあることを忘れてしまいがちですが、目の前の小さな多肉植物を通じて、それを感じることができるのかもしれないと、近藤さんの話しを聞いてそう思いました。

(近藤さん)「多肉植物の紅葉って、ほんとにすごい綺麗な色なんですよ。そうやって、季節ごとに変化していく多肉植物と生活をし始めたら、自然の営みに気づくようになって、季節の変化がゆっくり感じられるようになってきたんです。日々のタスクに追われて、風の感覚や太陽のじりじりとした感じ、湿度が高くて汗ばむなぁとか、乾いてて気持ち良いとか。そういった、人間の目には見えないことこそが、暮らしを送るうえで、大事なことだと思うんです」

gray color / glass

gray color / glass

吉原さんセレクト

「いつもお水を飲むんですが、あまり色のグラスは使わないんです。でもこれは、色が綺麗だなと思って選びました。実際に使ってみて、朝、お水を飲むときに、光がグラスの中に入ってきて、それがとても綺麗で。ただグラスだけを置いていても絵になるというのも選んだポイントで、この空間とのバランスも良いなと思いました」

※現在は販売しておりません。

gray color / bowl

gray color / bowl

近藤さんセレクト

「この多肉植物は、花うららと呼ばれるもので、この器に入れると空に浮いているみたいで、とても良いですよね。個体は色々なので、それは器を実際に見てから決めました。普通、ガラスは透けるので、土が見えてしまうことが、デメリットでもあり、メリットでもあるのですが、これは透明感がないのにガラスらしい色味があって、清らかさを演出できそうだなと思って選びました」

※現在は販売しておりません。

take glass

take glass

吉原さんセレクト

「ビールが好きなので、サイズ感がちょうど良いですよね。色ごとに付けられた名前も良くて、朝霧というこの半透明なインディゴも好きです。いつも植物のことが頭にあるからか、やはり緑や青を選んでしまいますね。自分が暮らしの中で気がかりにならないもの、心地良いものを身の回りには置きたいんです」

インタビュー 小谷実知世
構成 / 文 / 写真 山根晋
2019年11月