アメリカ・デンバーで2年に一回行われる、「WORLD BEER CUP 2014」において、銀賞を受賞したCOEDOビールの「伽羅 ?kyara-」。ガラス職人歴15年の中堅・松浦健司(36) がデザインした「likka」は、「伽羅 ?kyara-」の特徴であるスパイシーな香りを味わうことを追求したグラスだ。斜めの飲み口は、低いほうから飲むと香りを、高いほうから飲むと喉越しを堪能できる。「伽羅 ?kyara-」の豊かな世界を、ひとつのグラスで2通り味わうことができるのだ。キラキラとした輝きと凹凸の触覚が楽しい表面の装飾も、ガラスの美しさに拘る松浦ならでは。このグラスに込められた想いを訊いた。
--今回のコンペに参加された理由を教えてください。
話がきた瞬間に「出そう!」と思いました。COEDOビールとのコラボは、去年に引き続き今年で2回目。去年は5種類あるCOEDOビール全体でグラスを作るというもの
だったのですが、今年は1種類に的を絞って。個人的には、今回のほうが面白かったですね。
--「likka」のデザインコンセプトは? 「伽羅-Kyara-」独特の香りをどこまで楽しめるかを追求した“香りを楽しむグラス”というのを前提にデザインしました。斜めの飲み口が一番の特徴です。低いほうから 飲むと、グラス自体が鼻に被るので、「伽羅-Kyara-」のスパイシーな香りをダイレクトに楽しめると思って斜めの飲み口にしました。逆に、高いほうから飲むと鼻に当たらないので、正面を向いたまま喉越しよく飲むことができるんですね。ひとつのグラスで2通りの飲み方ができるのが、このグラスの特徴です。
--表面の凹凸は、どのように作られているのでしょうか?
ガラスのキラキラ感を出す表面の凹凸はガラス作りの基本なので、「likka」にもこのような柄を入れることにしました。型に入れる前に、凹凸をつける専用のモールにガラスを吹き込むことで柄をつけているんです。一瞬吹き込んで柄をつけたものをすぐに型に入れて再び吹くことで、このような柄を作ることができます。実は、この柄の入れ方が一番苦労しました。すべて感覚なので、毎回柄が異なるんですよ。あまりにも違いすぎると製品として成り立たなくなる。誤差の範囲内まで収めるのが非常に難しかったです。
--お客様からの反応はいかがでしたか?
7月に行われたビア・パーティの際、お客様にこのグラスも試していただいたのですが、皆様から「香りがよくわかる」と言っていただきました。グラスによって味が変わることに半信半疑な方が多かったのと、「ワインだったらわかるけどビールで?」というお客様も多かったんですが、試していただくと、2通りでビールの感じ方が全く異なるので、「おもしろい!」と驚いていらっしゃいましたよ。飲み口が低いほうから飲むと香りがいいんですが、ビールに喉越しを求める方は高いほうから飲んでいただくといいと思います。
--製品化が決まったときの感想を教えてください。
嬉しかったのと、正直ホッとしました。今回のコンペに参加した職人が後輩が多かったんですね。「負けてられないな」と思って(笑)。
COEDOビールの方が製品化するグラスを選ぶ際、実際にテイスティングして選んでいただいたのですが、後日3点それぞれにコメントをいただいたんですね。まさにこち
らが言わんとしていることを理解していただいたコメントだったので、「ちゃんと伝わってるね! よかったね!」と3人で喜んでいました。
ただ、お客様に伝えるのは難しいですよね。ショップには何種類も置いてある中で「これだ!」と思っていただくには、やはり置いておくだけじゃダメで。それぞれの作品によさがありますしね。最終的に選ぶのはお客様の好みになるとしても、職人がどういう想いで作ったかというのは、是非知っていただきたいですね。
--松浦さんの思う、SGHR製品の魅力を教えてください。
日常で使っていただいて楽しめる器っていうのが魅力ですね。その“楽しい”というのは、作ってる職人もすごく楽しいんですね。作る楽しさが製品を通して伝わるからこそ、お客様も楽しく使うことができると思うんです。美術品ではないけれど、日常の生活の中にSGHRの製品がひとつでも入ることで、ちょっとでも楽しくなっていただける
といいなと思っています。
--松浦さんの作るガラス製品の哲学は?
ガラスの持つ“瞬間の美しさ”をいかに形にするかを常に考えています。日々ガラスをいじっていると、きれいだと思う瞬間ってたくさんあるんですよ。例えば、やわらかいガラスがポトンと垂れる瞬間であったり、ガラスが割れる瞬間であった。どれもすごくきれいなんですけど、それは僕たち職人にしか見ることができないものでもある。
そういう一瞬一瞬のガラスの表情を形にして、みなさんに楽しんでいただけたらいいなと思っています。