東京から車で約一時間強。それまで東京都墨田区に本社を構えていたSghrが、ここ千葉県九十九里町へと工房を構えたのは1961年のこと。
以来、海と緑に囲まれたこの地で、いくつものガラス製品が作られてきました。
工房のすぐ近くには、広大な太平洋を望み、見渡すかぎりの空と砂浜が広がる九十九里浜。まだ手つかずの自然も多く残るこの地で、季節ごとに表情を変える景色を眺め、海からの風や音に耳を傾ける――。
スタイリッシュでありながら、手仕事のぬくもりを残したSghrのプロダクト。それらが持つ多彩な色合いや光に溶け込むようなきらめきは、九十九里の自然とともに過ごす毎日から生まれてくるのかもしれません。
広々としたファクトリーの一角にあるのは、2011年秋にリニューアルした「Sghr cafe(エスジーエイチアールカフェ)」。サンドイッチやパスタ、キーマカレーといったフードやスイーツはすべて自家製だとか。人気のオープンサンドは、大網白里市のブーランジェリー「粉桜」から取り寄せた天然酵母パンを使ったもの。もっちりとした玄米パンを軽くトーストし、千葉産のピーナツバターを塗ってアボカドやキャロットラペ、ツナをはさんだオリジナルメニューです。
さらに、仙台のカフェ「バル ミュゼット」のバリスタである川口千秋さんが監修し、イタリアのエスプレッソマシンで淹れたコーヒーをはじめ、芦屋のティーショップ「Uf-fu」の茶葉を使った紅茶など、ドリンクにもこだわりが。夏はブラックベリーをふんだんに取り入れたパルフェ、秋は和栗の甘さを活かしたムースなど、季節ごとのスイーツも楽しめます。
とりわけ注目したいのが、カフェで使われているSghrのガラス製品の数々。グラスはもちろんのこと、お皿やティーカップ、カトラリーケース、花器、ランプシェードに至るまで、Sghrのガラス製品が用いられています。水を入れるグラスはあえて統一せず、異なるデザインのグラスで提供するという凝りよう。
サンドイッチをのせた器は「ダミエ」という板チョコをモチーフにデザインされたシリーズで、Sghrの職人の一人がデザインしたもの。選任のデザイナーを置かず、ガラスの特性や魅力を知り尽くした職人がデザインを担当するSghrでは、定期的に開発会議を開催。約30人の職人がそれぞれにデザイン案を持ち寄り、そこから新しい商品が生まれていくとか。
Sghr cafeは様々なフードやドリンクと、ガラス器との組み合わせをゆっくりと楽しむことができ日々の暮らしの中で使えるうつわであることを体感できる場でもあります。
気になるアイテムを見つけたら、ファクトリー内にあるショップで購入することも可能。店頭で見るだけでなく、実際に触れて使い心地を試してみることで、ライフスタイルや好みに合った器を選ぶことができます。洗練された料理と器のスタイリングは、自宅で器を楽しむ際の参考にもなるはず。
なお、Sghrが九十九里へ移転を決めたきっかけのひとつが、当時の代表者が九十九里の見事な桜に惹かれたこと。そんなエピソードにちなみ、今も敷地内のあちこちには桜が植えられています。見頃を迎える季節には、桜を目当てに訪れた人々が、Sghr cafeのテラスから満開の桜を楽しんでいるそう。
日々多くのプロダクトが生み出されている工房では、ガラスの「熱さ」や「やわらかさ」を体感できるよう、一般に向けたガラス制作体験教室を行っています。
その魅力はなんと言っても、実際に製品が作られている現場で、職人に教わりながらガラス作りを体験できること。工房の中心に置かれているのは、1400℃もの高温でガラスを溶かしている「るつぼ」。夏は40℃以上にもなるという熱気の中、ガラスを形作っていく職人の技を間近に見ることができます。その動きは、魔法のように軽やかでスムーズ。1点ずつ手作りされているにもかかわらず、すべてを同じ規格に揃えることのできる技術の高さにも驚きます。
Sghrでできる体験教室は、主に「のばしコース」と「吹きコース」の2種類。ガラスの色やアイテムは好みのものを選ぶことができます。 初心者におすすめの「のばしコース」は、溶けてオレンジ色になった約1200℃のガラスをヘラで伸ばしながら、お皿や鉢、花器を作っていくというもの。とろりとしたガラスはあっと言う間に固まってしまうため、作業をする時間はわずか3分ほどです。
パイプに息を吹いてガラスをふくらませ、好きな形にする「吹きコース」で作るのは、一輪挿しや手つきグラス、小鉢など。完成した作品は、3時間ほどかけてゆっくり熱を冷ます「徐冷」という工程を経て手元に届けられます。いずれのコースでも、その日の夕方頃に持ち帰りができるのが嬉しいところ。臨場感にあふれるものづくりの現場で作ったオリジナルの器は、何よりの思い出となりそうです。(文・編集:工藤花衣)