日々の暮らし。
そこには、100人100篇の日々と暮らしがあるのだと思います。わたし達が寄り添いたいのは、ひとりとひとりの日々。そして、暮らし。そこで、気になるあの人のご自宅やお仕事場にお邪魔して、お話しを聞かせて頂きました。その際、事前にSghrの製品を選んで頂き、実際に暮らしの中で使われた実感や感想をお聞きしました。暮らしの日用品であるSghrの製品は、職人のもとで生まれ、使い手の暮らしの中で育っていきます。

今回取材させて頂いたのは、染織家の藤井繭子さん。八ヶ岳の麓にあるご自宅と併設されたアトリエにお邪魔して、染織のお仕事のこと、山の暮らし、植物のお話、そして独自の美学を持ってお選び頂いたガラスのことをお聞きしました。

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染織家 /藤井 繭子

大学卒業後、紬織重要無形文化財保持者志村ふくみ氏、洋子氏より京都の工房で染織を学ぶ。鎌倉にて独立した後、山梨県北杜市に拠を移し、草木の命を人の生に色として残したいという思いから絹糸を草木で染め織り、”きもの”を中心に制作している。
http://mayuko-fujii.jp/

藤井繭子さんのセレクト

年の瀬が迫る頃、凛とした冷たい空気が漂う八ヶ岳の麓。暮れのどこか落ち着かない気分を、すっと落ち着かせてくれるような静白の世界を味わう中、藤井繭子さんのご自宅に到着しました。思わず感嘆してしまう素敵な空間に、薪ストーブの柔らかな暖かさ。ご主人の健之さんが淹れて下さったコーヒーを頂きながら、ゆっくりと取材はスタートしました。

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自然と呼応する染織のしごと

藤井さんは、紬織重要無形文化財保持者の志村ふくみさんのもとで染織を学び、3年半の修行期間を経て、鎌倉にて染織作家としてのキャリアをスタートさせました。大学在学中は写真をやろうと思っていたそうですが、志村ふくみさんの存在を知り一転、情熱的にその門を叩いたそうです。

「とにかく、染織どうこうというよりも、志村先生のもとで学びたいというのが強くて、当初すぐには入門出来なかったのですが、その時の私のどうしても入門したい!というオーラは、すごかったのだと思います…(笑)外弟子という形でも良いから、とにかく京都に住もうと思っていたくらいで」

「桜の枝から色が出るの?というのが、最初この仕事に興味を持ったきっかけの一つでした。しかも、花が咲く直前の枝が一番綺麗な色が出るというのも、私にとっては魅力的なことでした」

そうなんですよね。枝から、あの豊饒で繊細な色々が生まれてくる不思議。木が全体として固有の色をそれぞれ持っていることに、自然が持つ奥深さを感じずにはいられません。

「鎌倉に住んでいた頃は、人を介して染料を手に入れることが多くて。例えば、民家やお寺の庭で剪定されているものを頂いたり。でも、こちら(八ヶ岳山麓)に越してからは、自ら森に入って採取するようなことが多くなりました。当たり前ですけど、植生も全然違って、鎌倉で手に入りやすかった染料が逆にこちらでは手に入れるのが難しかったりするので、こちら側(人)の都合に合わせるのではなくて、自然の方に合わせていくことが、この仕事の醍醐味だと思います。なので、どこに住むかに応じて、染めも自然と変化していくように思います」

「染織の仕事には、染めがあって織りがあってと、全くタイプが違う動と静が含まれていて。染めに関しては先ほど言ったように、外に出掛けていって植物との出会いを楽しむというか。一方で、織りの作業は淡々と同じ作業を繰り返す内省的な仕事です。どちらもあるからバランスが取れているんですよね。私は完全に長距離ランナータイプなので、作業としては織りも向いているんです」

自然と呼応して色を染め、淡々と内省的に織っていく。自然の崇高さと人の営みが経糸緯糸となって、織り込まれているかのような、藤井繭子さんの染織のしごと。

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山の暮らし、原始的な感覚

藤井さんに八ヶ岳山麓での暮らしについて聞いてみました。

「水が綺麗で、植物がやはり豊富なのと、あとは冬の厳しさ。冬の寒くて静かな季節があるから、より春の芽吹きを感じられるようになりました。あとは暗闇」

「夜がしっかり暗いんです。夜しっかり暗いと、ちゃんと目を休めることが出来るし、暗闇を知ることが出来るんです。暗闇を知ると、明るい時に、色がちゃんと見えるんですね」

なるほど、暗闇を知る。確かに都市部で暮らしていると、暗闇らしい暗闇はないのかもしれません。暗闇を知るということは、光を知るということ、光を知るということは色を知るということに繋がっていくのでしょうか。さらに、藤井さんには大事にしたい感覚があるそうです。

「原始的な感覚を持ちたいというのはあって、空の色とか花や実の色、原始の人々から見るとそれらがどれだけ輝かしく目に映ったのだろうと。それを人はなんとか手元に置きたい、あの色を留めたい、残したいと、体や衣に擦り付けた事が染色の始まりと言われていて。今の時代、感覚を研ぎ澄ましていないと、そういう原始的な喜びを見過ごしてしまう気がするんです」

「うちの娘なんかを見ていると感じるんですが、こっちで育っているので自然への入り方が違うんです。森の中で野蚕の繭とかも娘の方が見つけるのが上手で。私はどちらかというと頭で考えて、自然の中で養われる感覚を身につけようと思っていますが、娘は無意識にそういうものが身に付いている感じがするんです。パッと無作為に、見落としてしまうような美しさを見つけ出すんですよね」

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人は植物の恩恵を受けてきた

藤井さんは以前から、染織のお仕事とは別に少し趣向を変えて、身近にある植物ともっと多様な関わり方をしたいと思っていたそう。

「化学染料が出てくるまでは、草木で染めるのは日常的な行為だったんですよね。もちろん染めるだけでなく暮らしの中で様々な使い方をしていました。ひとつの植物をとってみても、葉や茎や根などを活用して様々な用途と効能があるんです。人は植物の恩恵を受けて暮らしてきたんですね。それをこれからもっと研究していきたいなと思っています」

八ヶ岳山麓に越されてからは、定期的に暮らしと植物を結ぶイベントや企画を行なわれてきました。そのひとつ、食と香りの専門家のご友人達と一緒に形にされている、とても素敵な植物の標本箱を見せて頂きました。そこには、いつどこで何を採取したのかも合わせて記録されています。

「記録を色で表現するというのは楽しいですよね。色を通じて、その季節や場所、時間を写し取るという感覚といいますか。それと、例えば植物の香りも記録したいなと思って様々な植物を塩漬けにして瓶に保管したりと…趣味ですけどね(笑)」

藤井さんが嬉々とした表情で、植物の奥深さや楽しさ、意外な一面をご説明下さり、聞いているこちらも、ぐんぐん植物の持つ魅力に引き込まれてしまいます。塩漬けされたヨモギの香りを嗅いだ時の驚きと言ったら…!一見整然としたシンプルな藤井さんのアトリエには染織のお仕事を始め、植物が持っている可能性や豊かさのようなものが、いたるところに潜んでいます。

「そういった植物の持つ可能性を考えると、染色も視覚だけを使う仕事ではなくて、つくづく五感でする仕事だなぁと感じています。匂ったり、食べたりもするし、触ったり、音で確かめることもあります」

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美学のあるガラスとの暮らし

今回、藤井さんが選ばれた3つの製品。(そして、おまけにもう一つ)藤井さんならではの美学を持って、ご自身の感覚と暮らしに調和するものを選んで頂きました。

「他の素材にはないガラスの魅力って、透過できるところかなと思います。光を通して、何かと何かの中間にあっても分断されないというか。それと私の場合は色を扱うので、それに対してクリアなガラスというのは色を引き立たせてくれますよね」

フラワーベース

「これは見た瞬間に、“一枝”挿し!と思いました。染料に使うのはもちろん、暖をとるにも必要で、私にとって枝は大切なものです。それと枝は造形的にも美しいなと思うんです。山暮らしならではの自然の愛で方にぴったりだなと思って、こちらのフラワーベースを選びました」

コラム

「染めたショールを保管したり、差し上げる時の入れ物を探していました。以前はプラスチック容器に入れたりもしていましたが、そもそも私がプラスチックが苦手で、あまりしっくりきていませんでした」ガラスであれば、染めの色がほんのりガラスにも写り込んで、まるでショールと一体となったような優しい色合いに。

デコレ

「反物の端切れで、袱紗を作っています。私の袱紗は何かの台座にすることが多いのですが、その袱紗の台座が欲しいなと思って選びました。台座の台座ですね(笑)染めに使った染料をこうやって合わせて添えると、より植物の持つ魅力が伝わりますよね。それと、この製品をデザインされたのが若い女性の職人さんということで、同じものづくりをする女性として頑張りましょ!という気持ちも込めて選ばせて頂きました」

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※現在は販売しておりません。

ヤムヤムカバー

「思わず可愛くて、もう1点選ばせて頂きました。こちらは娘のおやつのおにぎりカバーに是非使いたいなと思いました。ラップに包んでおいておくのは何か味気なくて、おにぎりのガラスカバーというのが面白いですよね」

あの人の日々と暮らしVol.02 今回は染織家の藤井繭子さんにお話しを聞きました。藤井繭子さんのお話し、いかがでしたでしょうか。
観賞用だけでなく、身近な自然にある植物を暮らしに取り込んでみるのも、日々の暮らしを少し豊かにしてくれそうです。
次回のあの人の日々と暮らしVol.03は2018年5月公開を予定しております。

構成 / 文 / 写真 山根晋
2018年2月