料理家 ワタナベマキさん

100人いれば、100篇の日々と暮らしがある。わたし達が寄り添いたいのは、ひとりとひとりの日々。そして、暮らし。そこで、気になるあの人のご自宅や仕事場にお邪魔して、お話しを聞かせていただきました。その際、事前に Sghr の製品を選んでいただき、実際に暮らしの中で使われた実感や感想をお聞きしました。暮らしの日用品である Sghr の製品は、職人のもとで生まれ、使い手の暮らしの中で育っていきます。

今回、お話を聞いたのは料理家のワタナベマキさん。書店の料理本コーナーに立ち寄れば、必ずと言っていいほどワタナベさんの本を見かけます。そこで提案されているレシピは素材の味を生かしたシンプルなもの。忙しい日々のなかでも、ちゃんとおいしいご飯を食べて欲しい、そんな想いが伝わってくるようです。真夏の昼下がり、お庭の緑が眩しいワタナベさんのスタジオにお邪魔しました。

ワタナベマキ
料理家。雑誌や書籍、イベントなどで幅広く活躍。グラフィックデザイナーを経て料理家の道へ進む。日々食べるものを美味しく丁寧につくるお弁当や朝ごはんなど、毎日の料理の参考になる著書を多数出版。近著に「ワタナベマキの10のお弁当」扶桑社刊)がある。

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普段から、人の手が関わっているもの、それを感じることのできるうつわを手に取ることが多いというワタナベマキさん。取材の直前まで、撮影だったというスタジオには、ずらりとご自身が選ばれたうつわが並んでいます。確かにそのどれもが、人の手で作られたゆえの温もりが感じられるような佇まい。もちろん、Sghr の製品も職人の手仕事によって作られています。まずは、お選びいただいたうつわ「そさら」から、その理由をお聞きしました。

うつわも料理の一部

(ワタナベマキさん)「まず使いやすそうという印象と、色違いで食卓に置きたいなと思いまして選びました。小ぶりなサイズにしたのは、それぞれの取り皿として使っても良いし、前菜なんかを盛ったり、無花果などの果物にも良さそうかなと。しっかりと重みもあるので、冷製パスタなんかも良いですよね。あとは、ソーサーのように使って、温かいスープなんかを別の器に入れてという組み合わせもできそうです」

と、お聞きすればさまざまな料理が会話のなかに浮かび、まるで料理本のページを捲っているかのような感覚に。ワタナベさんはうつわ選びの基準として自分が作る料理が想像できたら選ぶことにしているそうです。もちろん膨大なレパートリーがあるからだと思いますが、お刺身用のうつわだったりパスタ用のうつわであったり、盛り付けたいものを軸に探すのとは違い、うつわと出逢った際に湧き上がるインスピレーションを楽しめる気がして、憧れます。

「うつわも料理の一部で、うつわによって料理の見え方だけでなく美味しさも変わりますよね」と、ワタナベさん。もちろんうつわは料理のように食べられないわけで。でもやっぱり料理というのは、食べるだけでなくて、目で楽しむものでもあり、香りを楽しむものでもあり、さわりを楽しむものであることを、ワタナベさんのさりげない一言で思い起こしました。

次に、華やかな酒器「サキ」を選ばれた理由について。

(ワタナベマキさん)「これはまず縁の金が良くて、これに中国茶を淹れて飲みたいなと思いました。それと私、片口がすごく好きなので。このうつわは和の感じですけど、洋もいけますよね。蓮根のマリネとか、白みのあるものが綺麗そうです。和食器と考えると色々決まり事があると思いますけど、家で楽しむのだったら、色々な使い方をしてみても良いですよね」

「サキ」を小鉢で使用して、というのは良く見聞きするのですが、中国茶を淹れてというのは初めてです。そして実際に、ワタナベさんが淹れて下さって、なるほどと膝を打ちました。サキはサイズの違う五つのうつわを重ねて上から見ると花びらのように見えるのが特徴で、これであれば酒器として使うのと同じように、それぞれがサイズの違うグラスで中国茶を楽しむこともできそうです。

日々使ってこそ

食卓にはいろいろな種類のうつわを並べるのが好きというワタナベさん。それはもちろん見た目や予想外の取り合わせを楽しむということもあると思いますが、「うつわは使わないと自分のものにならない気がしているので、とにかく使います」と言われることにも少なからず関係しているようにも。あれもこれも日々使ってこそ、それぞれのうつわが徐々に自分のものになっていく。毎日の食卓というのは、そういうことが積み重なる機会なのかもしれません。

片口好きのワタナベさんは、蓋物もお好きということで、次に選ばれたのは今年の新作である「キャップンコップ」です。

(ワタナベマキさん)「なんでしょうね。理由はよく分からないんですけど昔から蓋付きのものに惹かれるんですよね。これ、手仕事で蓋がきっちり閉まる構造ってすごいですよね。お茶葉やコーヒー豆を入れたり、スパイスを入れたり。ベッドサイドにお水を持っていっても良いと思います。複数個を並べてみるのもかわいいですよね」

「キャップンコップ」をデザインした職人の松浦は、自分たちが工房で水分補給のため使っている蓋付きのコップが、テレワークが増えた昨今の暮らしのなかであったら良いのではないかと考え、製品をデザインしました。これもまた、日々使っているからこそ、そのモノの利点に気づくという例ではないでしょうか。

自分がしていないことはしない

料理家として、ワタナベさんがお仕事をする上で心がけていることは、「自分がしていないことは、しないようにしています」ということ。

(ワタナベマキさん)「料理って日々のことですし、新しいものや、古いもの、いろいろなニーズというのがあって、それに対してどうやって打ち返そうかと考えるのが楽しいんです。より美味しいものをみなさんに食べてもらたいという気持ちがあって、それは時間をかけて凝ってということではなくて、暮らしのなかで長続きして欲しいんですよね。だから、簡単にできることも大切だと考えています。でも、手抜き料理という言葉はあまり好きではなくて、手抜きというのと簡単というのは全然違うんですよね。その中で、日頃から私は電子レンジを使わないので、電子レンジを使ったレシピは考案しないとか。逆に出汁は取って料理をしているので、出汁はとります、だとか。普段の料理でしていないことはしないように心がけています」

最後に、選ばれた「ブラックアンドホワイト」について。これも用途としてはサラダボウルですが、ワタナベさんは花入れとして使ってくださいました。さりげなく活けられた植物が、黒いガラスのモダンな存在感と相まって、凛々しく佇んでいます。

(ワタナベマキさん)「黒いんですけど、不思議と重くないんですよね。やっぱりガラスだからですかね?こうやってグリーンとかお花を活けたいなと私は思ったんですけど。韓国料理なんか良さそうですね。ちょこっとキムチを盛り付けたり、ビビン麺とか、コングクスと言う豆乳麵も良いかもしれない」

取材を終えてお話を振り返ってみると、さりげなく答えていただいた言葉や、Sghr の製品を選んでいただいた理由にワタナベさんの料理家としてのあり方が染み込んでいるように感じました。またそれは、美味しい料理ということを、あらためて暮らしのなかで考えてみたいと思わせてくれるような言葉でした。

インタビュー 小谷実知世
構成 / 文 / 写真 山根晋