日々の暮らし。
そこには、100人100篇の日々と暮らしがあるのだと思います。わたし達が寄り添いたいのは、ひとりとひとりの日々。そして、暮らし。そこで、気になるあの人のご自宅やお仕事場にお邪魔して、お話しを聞かせて頂きました。その際、事前にSghrの製品を選んで頂き、実際に暮らしの中で使われた実感や感想をお聞きしました。暮らしの日用品であるSghrの製品は、職人のもとで生まれ、使い手の暮らしの中で育っていきます。

3回目の今回、取材させて頂いたのは、ミナ ペルホネン デザイナーの皆川明さん。お忙しい日々の合間に時間を頂き、ものの選び方や使い方、その背景にある皆川さんならではの、暮らしへのまなざしや味わい方をお聞きしました。また、皆川さんには以前、Sghrのグラスを2種類デザインして頂きました。それらのデザインに込められた想いも改めてお聞きしました。ゆっくりとした時間のお供にご覧頂ければと思います。

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デザイナー /皆川 明

1967年東京生まれ。1995年に自身のファッションブランド「minä(2003年よりminä perhonen)」を設立。時の経過により色あせることのないデザインを目指し、想像を込めたオリジナルデザインの生地による服作りを進めながら、インテリアファブリックや家具、陶磁器など暮らしに寄り添うデザインへと活動を広げている。また、デンマークKvadrat、スウェーデンKLIPPANなどのテキスタイルブランドへのデザイン提供や、朝日新聞や日本経済新聞の挿画なども手掛ける。
http://www.mina-perhonen.jp

皆川明さんのセレクト

minä perhonen デザインのSghr製品

取材をさせて頂くため、皆川さんのご自宅にお邪魔すると、何とも不思議な感覚に包まれました。少し挨拶を交わし、一言二言お話しさせて頂いただけでも伝わる、温和で精妙な皆川さんのお人柄に惹かれたのはもちろんですが、更にご自宅自体が、そんな皆川さんのお人柄をそのまま空間にしたような印象を感じたのです。そして、それは明らかにひとつひとつの“もの”が、ある一定の感覚や美意識の上で個性を発揮しながらも調和し、極めて自然に生まれたひとつの有機的な空間になっていました。そんな中、皆川さんに選ばれ、テーブルの上に置かれた新顔のSghrの製品たちが少し緊張しているようにも見えました。

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ものが持つ存在感

まずは、皆川さんに普段どのような考えを持って、ものを選ばれているのか聞いてみました。

「生活の道具それぞれに選ぶ要素はあるんですが、ものが持っている存在感が大事で、それがどういうところから来ているのか。材料から来ているのか、材料に入っている仕事から来ているのか、それともイノベーティブな何かしらの独創性から来ているのか。工業製品とクラフトでは視点は違うんですけど。作り手の作っている姿が見えたりですとか、そしてその結果、もの自体にきちんと存在感があるのかということを自分が感じられるかを大事にしています」

「その上で、器であれば、そこに盛りたい料理が浮かぶかどうか、ということを大事にしています。また、その器が景色になっていて欲しいので、料理の分量に対して器が見えている部分が多いものを選びますね。額縁に近い感覚なのかもしれません。ですので、器は比較的大きいものを選ぶことが多いです。盛りつけた状態もそうですが、食べ終わった後の器の見え方なんかも考えて」

実は、限られた取材時間だったので叶わなかったのですが、ガラスの器に合わせてブラウンマッシュルームとアボカドのサラダを作ってみたいと事前に材料までご用意下さっていました。皆川さんにとって、器は作りたい料理を生かすためのもの。

「ものの存在感、美しさを良いなと思って選ぶわけですけど、もの自体よりも、これを自分の暮らしに取り入れたら、こういう暮らし方になるだろうなって、その暮らしをしてみたいというのが購入する動機ですから、もの自体を所有するということには意外と興味が薄いかもしれません。この器にこんな料理を盛ったら、こういう時間を過ごせるだろうな、とか、一緒に食べる人に喜んでもらえるかなって思うことの方が大事であって」

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偶発的な美しさ、有機性、ものの生命

では、皆川さんが感じる、ものの存在感や美しさとはどのようなものなのでしょうか。

「あまり、緊張を強いるものは選ばないように思います。どんなにそこに仕事が繊細に入っていたとしても、そこから生まれる美しさがあるとしても、自分の暮らしに取り入れることはあまりしないですかね。逆に、人間が何かものを作るプロセスで、意図しない作用が偶発的に起こって、それが結果的にものの美しさになっているというものが好きで、暮らしに取り入れることが多いです」

「均質とか均一でないものに、生命だったり、有機性を感じるという意味では、機能よりもどちらかというと、もの自体がそういう有機性を持っている方が、人は暮らしの中で愛着を感じて長く使い続けるのかなと思うので、そういうことはとても大事だなと思いますね」

有機性というと、ミナ ペルホネンの洋服にも同じ印象を受けます。

「洋服でいうと、服のシェイプや素材自体に機能というものが入っていますけど、その上に載せているグラフィックというのはその機能を生命に変えるというか。ただの物質というのをテキスタイルや布の表情で生命力を作っていくという感じですね。デザインといってもそれが機能を意味するものと、人と共感し合い、繋がり合う物質の生命力を、ものの表情としてデザインすること。その両方が同時にあるというのは大事にしたいと思うんですけどね」

途中、今回お選び頂いたSghrの製品LOCAサーバーを使って淹れて下さったコーヒーを頂きながら、皆川さんのとても豊かな感覚、感性を垣間見ることが出来ました。また、ものが介在して育まれていく豊かな暮らしの大切なヒントを教えて頂いたような気がしました。

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時間と記憶

ものに生命が宿り、それらが私たちの暮らしと混然となって響き合う時。その時に感じることが出来る、味わい深い世界が更にあることを皆川さんはお話し下さいました。まずは、時間について。

「一人の人間がものを作って、その人間の寿命を遥かに上回る時間を、そのものが永らえると思うと素晴らしい事だなと思いますね。自分よりも長く、この世に存在するかもしれないものを作る仕事をしていることは尊いことだなぁと思いますし、また使う人にとっても、自分よりも長くこの世に存在していることを想って使えば、愛着にも繋がるでしょうし」

そして、様々なメディアに登場される機会の多い皆川さんが、頻繁に使われている言葉が、記憶。

「人はもので記憶を振り返ることが出来ると思うんですね。物にちゃんと記憶が含まれていく。親が使ってたものとか、自分が昔から使っているもの。それだけじゃなくて、例えばどこかの国で誰かが使っていたものの記憶とか。だから、なるべく長く持っていた方がその人にとっては良いと思うんですよね。本当はものよりも記憶の方が大事なのかもしれないけれど、ものがあることで記憶を振り返ることが出来るというスイッチみたいなものですから、一体なのではないかなと思いますね」

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エアーリップディッシュ

「中が空洞になっていたり、これ自体が液体を感じさせるボリューム感があるというところが魅力的だなと思いました。ガラスが2重になっているのでその時に見えてくる陰影というのが、もちろん1枚のガラスとは違うので、そこが面白かったり。この器を見て、ブラウンマッシュルームやアボカドでサラダを作ったら美味しそうだなと思って。食材の丸さと器のエッジの丸さの相性だったり、アボカドのやや若いグリーンとブラウンマッシュルームのベージュとブラウンがこの色と合うなと思いました。また、こういう深い色ですから、ビシソワーズとか冷たいスープとかを入れても美味しそうですよね」

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※現在は販売しておりません。

ピアット

「これも夏に爽やかな食材を使おうと思うと、かえってこういう深い色の器に盛ると色の対比が取れますよね。これに銀彩とかを合わせると良いかなと思うんですけど。カッペリーニとか作ってみたいなと思います。イタリアの料理は白い器に盛られることが多いんですけど、こういう墨っぽい色(カーボンブラック色)に盛ってあげると、バジルとかパルミジャーノとか、そういう食材が映える色だなと思いました。イタリアンをこういう深い色に盛ると新鮮ですよね。また、夜の場合は、灯りを落としているので、お皿の存在があまり強く出ないで料理が浮かんでくるようなメニューにする時には良いですね。逆に焼物だとこういう透明感がないので、存在感をうまく消しながら、でも景色になってて、良いですよね」

LOCA サーバー

「フィルターの素材とガラスの関係がすごく面白いなと思って、かつそれが美しいシェイプで出来上がっているので、理にかなっている美しさでとても良いなと思いました。それこそ、イノベーティブな製品ですよね。コーヒーが好きで、いつも自分でハンドドリップで淹れるんですけど。ペーパーフィルターかネルか、豆によって使い分けています。味もまろやかになるとお聞きしたので、これでコーヒーを淹れるのが楽しみです」

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※現在は販売しておりません。

ピーナッツ
designed by minä perhonen

「もともとのアイディアは焼物で出来たビールグラスの泡が残りやすいことにヒントを得て、グラスの内側にサンドブラストしたら良いかなと思って考えました。(下写真で持たれているのはサンドブラスト加工していない製品)それに加えて、指が引っかかる持ちやすさ。お花を活けたりも出来そうだなと。革の紐をここに(くびれ部分)ピッと通したら壁に掛けたりも出来ますよね。すごく丁寧に製造して頂いたのが、この飲み口のところで。下唇の当たりを配慮して少し反り返るように作って頂きました」

ホイップ
designed by minä perhonen

「世の中にたくさんの機能が増えていく中で、このグラスだけでは倒れてしまったり、中の飲み物がこぼれてしまうという不完全な状態をあえて作って、この台があることで成立するデザインにしました。何か足りないということで初めて人と助け合ったりコミニケーションが生まれて、関係性に繋がるということがあると思うので、それをデザインに置き換えてみようということで考えました。また、ワイングラスのステム(脚)がない形状でもありますので、和食のシーンでもワインを飲まれる方がとても増えてますから、これであれば和食の席でも高さということで調和が取れるかなと。それと、台は共通で、グラスを波佐見の磁器で作って頂いたものがあるので、それらの互換性も考えてデザインしました」

あの人の日々と暮らしVol.03 今回はデザイナーの皆川明さんにお話しを聞きました。偶発的な美しさと有機性がものに生命を与え、そこから立ち上がる存在感が使い手の心と繋がり、多くの時間と記憶を含んでいく。皆川さんのようにそんな確かな暮らしを作ることが出来たらと憧れの気持ちを抱きました。みなさんはいかがでしたでしょうか。
次回の、あの人の日々と暮らしは夏の暑さが和らいだ頃に、秋風とともにお届けする予定です。

インタビュー 小谷実知世
構成 / 文 / 写真 山根晋
2018年6月