mitosaya 江口宏志さん・山本祐布子さん

100人いれば、100篇の日々と暮らしがある。わたし達が寄り添いたいのは、ひとりとひとりの日々。そして、暮らし。そこで、気になるあの人のご自宅や仕事場にお邪魔して、お話しを聞かせていただきました。その際、事前にSghrの製品を選んでいただき、実際に暮らしの中で使われた実感や感想をお聞きしました。暮らしの日用品であるSghrの製品は、職人のもとで生まれ、使い手の暮らしの中で育っていきます。

房総半島の中央に位置する千葉県大多喜町で、植物や果実などを原料に蒸留酒オー・ド・ヴィや、関連するプロダクトを作るmitosayaの、江口宏志さんと山本祐布子さん。元々、薬草園だった跡地を借り受けたという『mitosaya薬草園蒸留所』の広大な敷地内には、蒸留酒を製造する蒸留所や原料となる植物や果樹、野菜を育てる畑、そして家族で住まわれるご自宅があります。そんなmitosayaのお二人とSghrは昨年より試作を重ね、蒸留酒オー・ド・ヴィのためのオリジナルグラスを、共同開発しました。そのご縁もあって、今回はお二人にSghrの製品を選んでいただき、お話を聞きました。

江口 宏志 / 蒸留家
ブックショップ[UTRECHT]、[THE TOKYO ART BOOK FAIR]、元代表。蒸留家クリストフ・ケラーが営む、南ドイツのオー・ド・ヴィの蒸留所、Stählemühle(スティーレミューレ)で蒸留技術を学ぶ。帰国後、日本の優れた果樹や植物から蒸留酒を作るための候補地を探し日本全国を訪れる中で、千葉県大多喜町の薬草園跡地に出会う。2016年12月 mitosaya株式会社設立。代表取締役就任。

山本 祐布子 / イラストレーター
mitosayaでは、ボタニカルプロダクトの開発や、フード・ドリンク全般に携わる。マップのイラストレーションももちろん彼女によるもの。京都精華大学テキスタイルデザイン科卒業。切り絵、水彩画、ドローイング等いくつかの技法を使い、 装丁、広告、プロダクトデザインなどに関わる。

http://mitosaya.com

ガラスが道具になる

まずは、型を使わずに、宙吹きの技法で製造したお皿「ピアット」をお選びいただいた理由からお聞きしました。直径が34cmと、大ぶりながらもシンプルな形状のお皿は、テーブルの上で程よい存在感を放っています。

(山本さん)「これは、いろいろな使い方ができそうだなぁと思って選びました。何度か実際に使ってみたんですが、ガラスなのにあったかい感じがあって、お料理がすごく映える器だなぁと。私もガラスのお皿、何枚か持っているんですけど、繊細で危険!みたいな感じがあって。でもこれは、ゆったりと盛り付けられるというか。確かに、熱々のお料理は違うかもしれませんが、ちょっとした和え物など、程よい厚みもあるので良さそうですよね」

ガラスなのにあったかい感じというのは、ハンドメイドガラスならではの質感。さらにピアットは、型を使わない宙吹きの技法で、職人が一枚一枚に時間をかけて製造しているお皿なので、なおさらそう感じられるのかもしれません。

(山本さん)「でも、あたたか過ぎないというのもポイントで。少しシャープで、あたたか過ぎない空気感というのが好きなんです。今回、スガハラの器を選んでみて感じたのは、ガラスが道具になるということで、やっぱりガラスって使うのに緊張してしまうとか、ちょっとハードルがあるような気がするのですが、そうではなく道具として使ってもらうことが前提にあるというか。そんな感じが、私にはしたんです」

きっと、道具としてのモノには、暮らしに役立てる機能というのが本質としてあって、もしかしたら山本さんの言われた、あたたかいけどあたたか過ぎない空気感というのは、機能としての道具の余白、つまりはハンドメイドガラスだからこそ付着する作り手の痕跡や気配のようなもの、とも言えるかもしれません。

(山本さん)「道具という意味だと、このガラスのスピーカーは究極の道具、ですよね。もう、どういうモノなんだろう?という興味があって選びました。大きさもあって、置くだけで絵になりますし。そうか、ガラスの道具でこんなのもできるんだ!という感じですね」

(江口さん)「もちろん、一般的に言われる良い音ということではないと思うのですが、低音が効かないので軽やか。音が形になっているというか、そういうコンセプトが面白いですよね」

そして、お選びいただいた3つ目の製品「セミ」は、素焼きの植木鉢を形どったフラワーベース。フラワーベースといっても、使い方によっては料理を盛り付けたり、さまざまな面白い用途を想像させるような製品です。

(山本さん)「誰しもがイメージするような植木鉢が、そのままの形でガラスになっているのがかわいいなと、無個性が個性になっているようなコンセプトに共感しました。最初にカタログで見た時は、丈の短い花だとかをこんもり飾ったり、球根だとか入れると良いかなぁと思っていたんですが、いざ届いて実際に見たら、キャンドルとかを飾ってみても良さそうと思いました。植木鉢の形をしているのに、素材がガラスになっただけで、上品な佇まいがあるなと感じて」

行き止まりがないものを

薬草園を借り受ける前は事務室として使われていた建物を、2年ほど時間をかけて手を動かし、自分たちで改修されたという江口さん、山本さんのご自宅。しかし、改修するのには大変な苦労があったそうです。

(山本さん)「改修するのに、まずは膨大にある不要なモノをどうにかしなくてはいけなくて。捨てるのはある意味簡単なんですけど、やっぱり捨てることにも抵抗があるから、なるべく使いたいなぁとは思いながら、どうしても好きになれないモノが溢れていて(笑)」

(江口さん)「床や天井も剥がしたら、不要なモノが800kgにもなったんです。800kgかぁ、って。使えるものは使おうと、なんとか工夫をしてやっと今の状態になったというか。でも、あるモノを使うというのが楽しいんですよね。捨てる罪悪感に比べたら、モノに新たな使い道を見つけることの方がずいぶん良いですよね。ここは普通の住宅扱いではないので、ゴミ収集が来ないんです。なので、自分たちで処理センターに運ばなくてはならないので、自然とそういうことを考えてしまいます。処理センターに行ったら行ったで、何か面白そうなモノを見つけて持って帰ってきてしまうんですけどね(笑)」

(山本さん)「自分たちがモノを生み出す側でもあるので、なるべくモノとして行き止まりがないモノを作りたいと思っていて。たとえば、原料にならない植物や果物などを利用して、ジャムやシロップなどに加工をするだとか。自然が近くにある環境ですし…」

(江口さん)「自然に追われているだけというかね(笑)でも本当に上手くできていて、お正月のお祝いとして飲む屠蘇酒は、屠蘇散と言われる数種類の薬草を調合したものを、みりんだとかお酒に漬け込むんですが、今ちょうどそれを作っていて。その屠蘇散も秋から冬になった薬草を集めていくと、自然とできるようになっているんですよね。すごく理にかなっているというか。循環みたいなものの途中に自分たちもいて、何か作る時に、それが無駄にならないモノを作りたいという気持ちはありますね」

香りを楽しむお酒のための、グラス

昨年より、mitosayaのお二人とSghrは蒸留酒オー・ド・ヴィのためのグラスを作るべく試作を重ね、共に開発を進めてきました。まもなく正式にリリースというタイミングで、今回のコラボレーションの背景をお聞きしました。

(江口さん)「僕の友達が、花園にラグビーを見に行ってね、寒いから蒸留酒とか良いんですよね。その時に、日本酒のお猪口で飲んでるわけですよ(笑)なんかちょっと納得できなくて(笑)ちゃんと良いグラスを作るから、今度はそれで飲んでよってことで、そういったシチュエーションでも使えるような、小さめのサイズというのがまずあったんですよね」

(山本さん)「常々、どうやって飲んだらいいですか?というのは聞かれることで、その中でどんなグラスで飲んだら良いの?って多いんですよね。確かに、ウィスキーグラスも違うっちゃ違うし、ワイングラスも、それこそお猪口も違和感があるんだけど、お好きなグラスで楽しんでください、とお伝えはしていたんです。でもやっぱり、江口さんが学んでいたドイツの蒸留所では、オリジナルの綺麗なテイスティンググラスがあって、手のひらで温めるようなサイズ感だとか、飲み口の感じとか、すごく良くて香りの届き方が違うんですよね。なので、オリジナルのグラスを作りたいという想いは、ずっとあって」

(江口さん)「僕らが作っているお酒は、香りを味わっていただく類のお酒なんですね。果物や植物を原料にしたオー・ド・ヴィは、それぞれ原料から違うので、その違いが面白いかなと。でもストイックに、小数点以下の違いにこだわるということではなくて、もっとおおらかに楽しんでもらえたらなと思っていて。ちょっとハイアルコールの蒸留酒を食後に飲むのが気持ち良いよね、というのがこれを機にもっと広がっていくと良いかなと思います」

mitosaya × Sghr 蒸留酒オー・ド・ヴィのためのグラスは、2021年 1月 20日(水)より、Sghr 直営店・Sghr オンラインショップにて発売いたします。

インタビュー 小谷実知世
構成 / 文 / 写真 山根晋