マイファーストデザイン – 桑升桃子

これまでに多くのデザインをして、さまざまな製品を世に送り出してきた職人にも、最初にデザインした製品があります。右も左も分からない駆け出しの時期に描いた「こんなガラスがあったら良いな」という素朴な想いは、経験と技術を積み重ねたその後のデザインにもどこか通ずるものがあるように思います。職人それぞれの感性や、そこに込められた想いを“ファーストデザイン”を通じて聞いていきます。

桑升桃子
自身がデザインした製品を作るほか、アクセサリーなどの開発にも携わる。二度の育休を経て、製造の現場へ復帰。使う人が日々楽しく幸せになるような、そんなものづくりへの想いを膨らませる。

 

 

Sghr でも女性の職人によるデザインは、鮮やかな色使いや曲線的なフォルムなど、ひとくくりに言い表すことはできないですが、柔らかな感性にもとづくユニークな製品が数多く生まれてきました。一方、桑升がデザインする製品は、そういった特徴もありながら、使いやすい機能性であったり、どこかプロダクトデザイン的な視点があるように思います。

桑升:もともと大学では、インテリアデザインを学んでいました。当社の sim などもデザインされている家具デザイナー小泉誠さんのゼミに入っていて。なので、ガラスを学んではいないんです。ゼミの中で照明演出の課題があって、そこでガラスを扱ってみて、ガラスって本当に綺麗だなと。大学のガラス科の友達に頼んで、実際に吹かせてもらったらすごく難しくて、それで興味を持って今日に至るという感じですね。図面を書いたりするのも好きなんですけど、手を動かして実際に物を作る方が私は楽しいなと。

桑升:わたしのファーストデザインは2つあって、ひとつはこの〈ピラ〉という器です。模様が横に大きく入っていて、植物の葉や実のように見えるのが特徴で影も綺麗ですよね。入社した年にデザインをしました。当時はガラス未経験なので全く吹けず、なので自分でスケッチを描いて、それを作れそうな先輩に試作をしてもらうという日々でした。

深さがあるのでフルーツの器にも最適。すぼみの箇所にスプーンやフォークなどを引っ掛けることもできます。

 

桑升:Sghr では職人たちを中心として、研究会というのが月に1度開催されて、そこで試作をしたり、異分野のゲストをお呼びしてガラスの可能性を模索したりするのですが、その研究会のたびに最低5つはデザイン案を出すということを自分に課していました。1つのデザイン案をじっくりと深めていく人もいると思うのですが、私はとにかくたくさんスケッチを描いて、その中から拾ってもらうみたいな感じで、それは今でも変わってないですね。

桑升:2つ目はこの〈ピルエット〉です。これも入社した年にデザインしたものです。この年にちょうど、型自体が回転し遠心力でガラスを広げていく装置を会社が導入して、これで何か作ってみようという流れがあって、私も考えてみたら採用してもらいました。これを出した数年後のオリンピックのエンブレムが、たまたまこの形状とすごく似ていて、社内でちょっとした話題になったこともありました。

3つ重なる円ごとに小さな段が付いている器なので、盛り付けの楽しみ方はさまざま。中華系のお料理も凛とした雰囲気がでます。

 

桑升:はじめて自分のデザインが製品になった時は、やったぁという感じで(笑)単純に嬉しかったです。コロナ禍以前は、全国の Sghr の店舗で開催する、新作展に職人も行って接客をしていたので、その時はすごく緊張しましたね。一日中、緊張していたことを覚えています。

桑升:当時と今を比べると、今は自分が吹いて作るものをベースにデザインを考えるようになりました。今考えると、自分で作れないから無茶なお願いもたくさんしていたなぁと。作り方が難しい方が面白い製品ができるんじゃないかという変な考えがあって(笑)あとは、今は子どもも二人いるので、プライベートの時間でスケッチを描いてデザインを考えるという時間があまり取れなくなりましたが、その分昼休みの時など短時間で集中して考えたりしています。

構成 / 文 / 写真 山根晋
2023年2月

※この記事で紹介した製品は、数量限定での販売となります。