くりかえし、くりかえし読みたくなるような本を一冊選び、
ゆっくりと過ごせる時間をたっぷりと、できれば半日くらい。
秋風が肌を柔らかくなでるような場所に、椅子を置きます。
緩やかさがあり、でも少しだけ気持ちにハリがうまれる服に着替え、
鳥のさえずりで物足りない場合、お好みで音楽も。ただし、音量はしぼって、
聞こえるか聞こえないかくらいがちょうど良いです。
そして、この時のために用意した飲み物をグラスに注いだら、準備は完了。
本を読む。豊かなひとときを、お過ごしください。
世界には、およそ7000の言語があるそうです。その中で、「大きな」言葉と「小さな」言葉があるならば、本書は「小さな」言葉とその言葉の背景にひろがる世界を、西淑さんの詩的なイラストで紹介する単語帳が『なくなりそうな世界のことば』(創元社)。その中からひとつ、パプア・ニューギニアの公用語であるピシン語で、「ナティン」という言葉があるそうです。「ナティン」とは、特別ではなく、何も足し引きをしていない素のものを表します。砂糖もミルクも入れないコーヒー、目的のない訪問、格別偉くない人、これらが「ナティン」。Sghrで「ナティン」なグラスと言えば、フィフティーズ。特別ではない日々にも馴染むグラスです。
一見、馬の形をしたガラスの置物のようですが、逆さにするとグラスになるのがこのダービー。この楽しいグラスに合わせて選んだ本が、『はしっこに、馬といる』(カディブックス)です。東京から与那国島に移住した著者が、一頭の馬と暮らしながら、人と馬との関係性について綴られた一冊です。平易に書かれながらも、実感が落とされた文章は、とても説得力があります。文中、なんども出てくる「馬語」という言葉。馬と話せるようになるために、著者が試みた数々の方法や気づきは、人と人とのコミニケーションにも置き換えられるように思いました。
本国ノルウェーでベストセラーとなり、世界14カ国に翻訳権が売れた、現役の大工職人によるエッセイ。日々、取り組む仕事とそれに対する自身の考えが事細かに書かれています。仕事への誇りを持ち、つねに健全とは何かを問いながら、現実と向き合っていく職人の姿を文面で追いかけ、気づけばあっという間に読み終えてしまう、想像を超えた面白さです。この本の著者のように、今日の仕事に十分な達成感を感じたら、ノルウェー語で“乾杯”を意味するスコールにビールを注いでください。今日の疲労感を和らげて、また明日。
詩人の長田弘さんが、食べものと言葉を調理し、食卓に詩のフルコースをふるまうような詩集、『食卓一期一会』(ハルキ文庫)。読んでいるとお腹が空くと同時に、人生のあれこれに想いを馳せたり、世界中のあちこちの食卓を旅した気分になったりと、不思議な魅力に溢れた一冊です。「食卓は、ひとが一期一会を共にする場。人生はつまるところ、誰と食卓を共にするかということではないだろうか」と、長田さんは言います。一期一会の食卓だからこそ、ハンディキャップをお持ちの方、高齢者の方とも食卓を共にできるようにとデザインされた、トモニグラスが活躍してくれます。
ひとつのグラスがお客様のもとへ届けられるまで、職人はもちろんのこと、型の製造や加工もあれば、生産の管理、ガラス炉の管理、検品、梱包、箱の製造、発送、運送、そして営業や店舗接客にいたるまで、Sghrでは自社内でさまざまなスタッフによる、ものづくりのリレーが行われています。同じように、一冊の本が読者のもとに届くまでにも、さまざまな人たちの仕事と想いがあります。本書『本を贈る』(三輪舎)には、そんな本に関わる人たち、とくべつ「贈るように」本をつくり、届ける人たち10人によるエッセイが集録されています。本書にあわせて、選んだグラスは、ポウサ。夕方、仕事に家事とやることはまだ残っているけど、ちょっと小休止にビールでも。そんな場面を想定してつくられました。さりげなく贈るグラスにもどうぞ。お値段も、ちょうど単行本一冊分です。
構成 / 文 / 写真 山根晋
2019年10月
2019年10月2日(水)から15日(火)まで、大阪・梅田の阪急うめだ本店7階プロモーションスペース72にて「本とグラス」の期間限定特別コーナーが設けられています。特集「本とグラス」「本とグラス2」でご紹介した本とグラスの他に、文筆家の甲斐みのりさん、紀伊国屋書店の書店員さんが選んだ本とグラスも展示し、セットでご購入いただけます。ゆげ焙煎所のコーヒーや、Uf-fuの紅茶もお楽しみいただきながら、ゆっくりとした「本とグラス」の時間をご提案しています。ぜひお立ち寄りください。