本とグラス3

本を読むということはある一つの世界を旅すること。本を開けば、どんな場所でも、どんなささいな時間でも、もう一つの世界を味わうことができます。印刷された活字を追いかけ、想像力のなかを一歩ずつ、時には小走りに歩んでいくことは、まさに旅そのもの。そんな本を通じた様々な旅に合わせて、グラスを選びました。どうぞ、心に残る旅をお楽しみください。

ココ × 世界の樹木をめぐる80の物語 / ジョナサン・ドローリー

世界各地の代表的な木について、それぞれの特徴や個性、人々との歴史、具体的な利用や加工のされ方が美しいイラストと共に紹介されている『世界の樹木をめぐる80の物語』(柏書房)。史実に基づいた内容が集録されていますが、どこか神話や寓話のように思えてくるのも樹をめぐる物語だからでしょうか。著者が住むロンドンから東向きにはじまる、世界中の樹をめぐる旅。じっくり、1ページずつ味わいたい一冊です。木の実のようなデザインの「ココ」はまさに本書にぴったりのグラス。庭や近所の樹が見える窓際で、どうぞ。

ディ アクア × 旅の断片 / 若菜晃子

いつか、どこかの海で見たような美しい水面がグラスに広がる「ディ アクア」。併せて紹介する一冊は、『旅の断片』(アノニマスタジオ)です。観光名所や大都市を目的にせず、なにげない普通の暮らしの隙間にすっと入り、そこにもう一つの人生を想像することを旅の醍醐味としてきた著者による旅のエッセイ。さらりと読めるのに味わいが長く続くような、大切に読みたくなる本です。ダイビングで東南アジアの島々の美しい海に潜り、自分の人生を深く見つめ直した一節も印象的。

ア、カップ × すべての、白いものたちの / ハン・ガン

韓国の作家、ハン・ガンさんの著書『すべての、白いものたちの』(河出書房新社)は、タイトルにあるように白いものたちについてのエッセイ集です。おくるみ、うぶぎ、しお、ゆき、こおり、つき、こめ、なみ、心に想起する白いものを書きとめることからこの本は書かれました。白といっても清潔で無垢な印象があったり、神聖さやそれゆえの怖さを感じたりと様々な白の世界があります。この本に合わせて選んだのは、白い紙コップを模してデザインされた「ア、カップ」。一見、普通の紙コップに見えますが、実はガラスという不思議さが愉しいグラスです。

ブラックアンドホワイト × そんなとき隣に詩がいます / 谷川俊太郎・鴻上尚史

劇作家・演出家の鴻上さんが、人生の処方箋として詩人 谷川俊太郎さんの詩を紹介する一冊が『そんなとき隣に詩がいます 鴻上尚史が選ぶ谷川俊太郎の詩』(大和書房)です。例えば、さみしくてたまらなくなったら、家族に疲れたら、生きるパワーが欲しくなったら、など。静かな夜にそっと本を開きたくなる、深い夜を纏ったような装丁も美しく、同じく深みのある黒いグラス「ブラックアンドホワイト」を選びました。ビールの泡がとてもクリーミーになるのも特徴です。

Sghr cafe ティーボウル × てぶくろ / エウゲーニ・M・ラチョフ・うちだりさこ

ウクライナ民話の絵本『てぶくろ』(福音館書店)は幼い頃の記憶にある人も多いのではないでしょうか。雪の日、おじいさんが森に落としてしまった手袋に様々な動物たちが入れておくれと次々訪ねてきます。なぜだが読んでいるこちらにも手袋のなかの温かい空気が伝わってきます。併せて選んだのは、「ティーボウル」。温かい飲み物を、手のひらで包んで楽しめるグラスです。冬の寒い日は、家のなかで懐かしい絵本をめくって、時間の旅をするのも。

構成 / 文 / 写真 / 動画 山根晋
2022年12月